「先生方のおすすめの本を知りたい!」という多くの学生の皆さんからのリクエストにお応えし、シリーズ企画展示「先生の推し本」としてお茶大の先生方おすすめの本を紹介しています。
先生方には、次の3つのテーマから1つ選択して、推薦いただきました。
① 専門からの推薦図書(専門領域の基本文献、その分野に進まれるきっかけとなった図書など)
② 個人的な興味・関心からの推薦図書
(読後の印象がよかったもの、思い出に残っているもの、趣味・個人的関心に関係する図書など)
③ お茶大生に読んでほしい本(専門にかかわらず、大学生にぜひ読んでほしい推薦図書)
推薦いただいた本のリストと先生方からのコメントは、こちらのページで見ることができるほか、図書館1階スカイグローバルラーニングコモンズには実物を展示しています。
展示している本は、手に取ってご利用になれるほか、貸出も可能です(一部貸出不可のものもあります)。
ご来館の際はぜひお立ち寄りください。
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第15回 千葉優作先生(理学部数学科) 2025年6月16日~8月末
テーマ 「数学者・物理学者の人生 」 <テーマ選択②>
私は昔から科学者の伝記が好きでした。天才への憧れがあったからでしょう。ここでは私が最近読んだ数学者・物理学者の伝記を中心に紹介したいと思います。ただし、彼らの業績を正確に理解しているわけではありませんので、一言コメントはあくまで個人的な感想ということでよろしくお願いします。
2007年、東京大学理学部数学科を卒業。2009年、東京大学大学院数理科学研究科修士課程修了。2012年、同博士課程修了。博士(数理科学)。
東京大学GCOEプロジェクト研究員、東京大学大学院数理科学研究科特任助教などを経て、2017年お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教としてお茶の水女子大学に着任。現在、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系准教授。
専門は、多変数複素関数論。
千葉先生の推し本 一覧(2025/6/11更新)
PDFでの一覧はこちらです。
書名 / 著者等. (出版社, 刊行年月. シリーズ名) |
配架場所 請求記号 |
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先生からのコメント | |||||||
ビューティフル・マインド : 天才数学者の絶望と奇跡 / シルヴィア・ナサー [著] ; 塩川優訳.(新潮社, 2013.11. 新潮文庫). | 図書館一般図書 289.3 /N55 |
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数学者ジョン ナッシュ(1928年-2015年)の伝記で、映画化もされている。ナッシュは「リーマン多様体の等長埋め込み問題」という難問を証明したり、偏微分方程式論で画期的な成果を挙げた。他にもゲーム理論・経済学で有名なナッシュ均衡を発見し、数学に留まらない業績を挙げている。しかし、そんなキャリアの最盛期に統合失調症を発症する。自分を南極大陸の皇帝だと言い出したり、共産主義者に狙われていると思い込みヨーロッパへ移住するなどの行動が続いた。そして長く苦しい闘病生活を経て快復し、1994年にノーベル経済学賞を受賞する。本書ではそんな波乱万丈のナッシュの人生が魅力たっぷりに紹介されており、映画よりも本書の方が面白い。この本が出版された後、ナッシュは数学界最高峰の賞であるアーベル賞を受賞するが、その授賞式の帰りに交通事故で亡くなってしまう。どこまでも悲劇的な天才数学者であった。 | |||||||
関連資料 | ナッシュは何を見たか : 純粋数学とゲーム理論 / [ナッシュ著] ; H. W. クーン, S.ナサー編 ; 落合卓四郎, 松島斉訳. (シュプリンガー・フェアラーク東京, 2005.10.) | 図書館一般図書 410.4/N55 |
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A beautiful mind / ロン・ハワード監督. (パラマウントジャパン (発売), c2001.) | 図書館リベラルアーツ資料(LA4) 778ZZ1-vd/H96 |
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量子の海、ディラックの深淵 : 天才物理学者の華々しき業績と寡黙なる生涯 / グレアム・ファーメロ著 ; 吉田三知世訳.(早川書房 , 2010.9). | 図書館一般図書 289.3/D78 |
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数理物理学者であるポール ディラック(1902年-1984年)の伝記。ディラックは量子力学に絶大な貢献をした。一方で非常に無口な変わった人として有名で、そんなディラックの人生が大量の資料に基づいて丁寧に書かれている。ちなみに本書の原題は The Strangest Man という。これは量子力学の大家ニールス ボーアが、ディラックを評した言葉である。ボーアの元にはハイゼンベルグ、パウリなど個性的な天才たちが集まったが、中でもディラックは飛び抜けて変わった人であったようだ。ディラックの物理学上のアイディアは、数学にも大きな影響を与えており、スピン幾何学という一分野となっている。スピン幾何学では幾何学的な不変量が解析学で現れる指数により与えられるという魅力的な定理が成り立ち、現在も盛んに研究されている。 | |||||||
関連資料 | ポール・ディラック : 人と業績 / アブラハム・パイスほか著 ; 藤井昭彦訳. (筑摩書房, 2012.11. ちくま学芸文庫 ; [ハ36-1]). | 図書館文庫・新書 429.1 /P16 |
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マンガ現代物理学を築いた巨人 : ニールス・ボーアの量子論 / ジム・オッタヴィアニ原作 ;リーランド・パーヴィス他漫画 ; 今枝麻子, 園田英徳訳. (講談社, 2016.7. ブルーバックス, B-1975). | 図書館一般図書 | ||||||
ブルーバックス シリーズから出ている、量子力学の巨匠ニールス ボーア(1885年-1962年)の伝記。書名にある通り漫画なのだが、絵とセリフの癖がかなり強く、アマゾンのレビューで酷評されていた(^^;)。私は味があって好きなのだが……。本書の前半は、ボーアが物理学者を次々に魅了し、量子力学を作り上げていく様子が紹介されている。特に弟子のハイゼンベルグとは家族のように親交があり、二人の掛け合いが楽しめる。後半は、第二次世界大戦によってボーアたち物理学者の運命が大きく変えられていく様子が描かれている。ボーアは、ナチス政権下のドイツに残ったハイゼンベルグを非難し決別する。二人の友情の終焉を表す悲しいエピソードであるが、漫画ならではの迫力で読むことができる。 | |||||||
関連資料 | ニールス・ボーアは日本で何を見たか : 量子力学の巨人、一九三七年の講演旅行 / 長島要一著. (平凡社, 2013.12. ) | 図書館一般図書 289.3 /B62 |
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Niels Bohr : the man, his science & the world they changed / Ruth Moore ; withdrawings by Sue Richert Allen ; : pbk. -- 1st MIT Press paperback ed. (MITPress, 1985, c1966.) | 図書館オープン書庫(一般図書) 289 /B62 |
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ニールスボーア : 世界を変えた科学者 / ルース・ムーア著 ; 藤岡由夫訳. (河出書房,1968.9.) | 図書館オープン書庫(一般図書) 289.3 /B62k |
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ニールス・ボーア : その友と同僚より見た生涯と業績 / S.ローゼンタール編 ; 豊田利幸訳. (岩波書店 , 1970.4) | 図書館オープン書庫(一般図書) 289.3 /R79 |
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Niels Bohr's times : in physics, philosophy, and polity / Abraham Pais.(Clarendon Press, 1991. ) | 図書館オープン書庫(一般図書) 429 /P16 |
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量子革命 : アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突 / マンジット・クマール [著] ; 青木薫訳. (新潮社, 2017.2. 新潮文庫 ; 10668, シ-38-26). | 図書館一般図書 421.3 /Ku35 |
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量子力学創設における群像劇といった本。特にアインシュタインとボーアの量子力学をめぐる論争を中心に書かれている。アインシュタインは言わずと知れた、相対性理論を作り上げた20世紀最高の物理学者であるが、ボーアらが支持する量子力学の確率論的な解釈に納得がいかなかった。そのためアインシュタインはボーアに何度も論争を仕掛け、その度にボーアが一応の防衛を果たす。他にも量子論創設者のマックス プランクの発見から、シュレーディンガーとハイゼンベルグの二つの量子力学をめぐる対立、さらには最近ノーベル賞で話題になったベルの不等式まで紹介されている。量子力学の歴史を知るのにおすすめの一冊。 | |||||||
関連資料 | アインシュタインとボーア : 相対論・量子論のフロンティア / 日本物理学会編. (裳華房, 1999.10.) | 図書館一般図書 421.2 /E39 |
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ボーアとアインシュタインに量子を読む : 量子物理学の原理をめぐって / 山本義隆[著]. (みすず書房, 2022.9.) | 図書館一般図書 429.1 /Y31 |
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アインシュタインvsボーア : はてしない物理学の論争 / Mendel Sachs [著] ; 原田稔,杉元賢治共訳. (丸善, 1991.12.) | 図書館オープン書庫(一般図書) 429.1 /Sa12 |
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天上の歌 : 岡潔の生涯 / 帯金充利著. (新泉社, 2003.3.) | 図書館一般図書 289.1 /O36 |
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日本を代表する数学者の岡 潔(1901年-1978年)の伝記。岡は多変数関数論という分野で三つの難問を解決し、世界中の数学者に衝撃を与えた。しかし、日本で岡潔が有名になったのは当時毎日新聞で連載された岡のエッセイによってであろう。エッセイでは戦後日本人の生き方や教育について警鐘をならしている。本書では岡の思想を中心に、数学的な内容はあまり立ち入らずに紹介されており、読みやすい内容となっている。「天上の歌」というタイトルは、岡の発見した「上空移行の原理」ともかかっているのであろう。上空移行の原理は、低い次元における微分方程式を高次元(天上・上空)へと移行することで解けるようにする一連の手法である。私の専門も多変数関数論で、大学院生のとき苦労しながら岡の結果を勉強したことが懐かしく思いだされる。 | |||||||
関連資料 | 評伝岡潔 / 高瀬正仁著 ; 星の章 ; 花の章. (筑摩書房, 2021.11.-2022.1. ちくま学芸文庫). | 図書館文庫・新書 289.1 /O36 /1-2 |
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岡潔 : 数学の詩人 / 高瀬正仁著. (岩波書店, 2008.10. 岩波新書 ; 新赤版 1154). | 図書館リベラルアーツ資料(LA4) 289.1 /O36 |
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無限からの光芒 : ポーランド学派の数学者たち / 志賀浩二著. (日本評論社 , 1988.4) | 図書館オープン書庫(一般図書) 410.2/Sh27 |
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20世紀前半、独立と戦争による激動の時代にポーランドで異色の数学が隆盛した。その数学は主に選択公理という、無限を扱う公理に根付いたものである。公理とは当然成り立つものと初めから仮定されるものであり、選択公理もそれ自体は一見明らかな内容に見える。しかし、実はそこから様々な奇妙な定理が帰結されることが、ポーランド学派により示された。本書ではバナッハ(1892年-1945年)やウラム(1909年-1984年)といったポーランド学派の中心的な人物を、その証明した定理も含めて詳しく紹介している。また、偏微分方程式論で有名な数学者シャウダーがポーランド人であること、第二次世界大戦中に若くして亡くなってしまったことなど本書で初めて知ることができた。 | |||||||
関連資料 | バナッハとポーランド数学 / R.カウージャ著 ; 阪本ひろむ訳. (シュプリンガー・フェアラーク東京, 2005.12. シュプリンガー数学クラブ ; 17). | 図書館一般図書 289.3 /B17 |
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フォン・ノイマンの生涯 / ノーマン・マクレイ著 ; 渡辺正, 芦田みどり訳. (筑摩書房, 2021.4. ちくま学芸文庫 ; [マ50-1]) | 図書館文庫・新書 402/N67 |
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コンピューターの基礎を作ったジョン・フォン・ノイマン(1903年-1957年)の伝記。ノイマンがいかに様々な分野で活躍したかわかる本。神童と呼ばれた幼少期から、マンハッタン計画に携わっていく様子など、詳細に書かれている。ノイマンが整備した非有界作用素の理論など、個人的にも馴染みある概念が出てきて楽しめた。ただところどころ筆者の主観が強く入っているように感じられたので、注意が必要かもしれない。例えばノイマンがプリンストン大学に在籍していた当時、同僚にはアインシュタインやヘルマン ワイルをはじめとして超一流の研究者がいた。しかし彼らは自分の殻に閉じこもり、本当に意味のある研究をしていたのはノイマンだけというようなことが書かれていた気がする。(うろ覚えです......。)この辺は少し言い過ぎと感じてしまう。 | |||||||
関連資料 | 未来から来た男ジョン・フォン・ノイマン / アナニヨ・バッタチャリヤ [著] ; 松井信彦訳. (みすず書房, 2023.9.) | 図書館一般図書 289.3 /N67 |
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数学者の孤独な冒険 : 数学と自己の発見への旅 / アレクサンドル・グロタンディーク著 ; 辻雄一訳. (現代数学社 , 2015.7) | 電子ブック | ||||||
伝説的な数学者グロタンディーク(1928年-2014年)による自伝兼エッセイ。数学や数学界に関する思想が語られている。中でもスキームやモチーフといった現代数学の重要な概念が、創始者であるグロタンディーク本人により解説されている貴重な本である。若いころは長さや面積の本質に興味がありルベーグ積分論を自力で発見・構成したことや、本書の最後の方では美味しいキムチの作り方などが書かれいる。数学とのギャップがなんだか面白い。ところで、グロタンディークの問題に対するアプローチはかなり個性的である。数学の土台を一から入念に作り上げて、最終的には難問が簡単な演習問題となるように仕向けるものだったようだ。数学の難問をクルミの殻に例えた次のような記事をよんだことがある:クルミの殻を割ろうとした時、一般的な天才は力強くクラッカーで割る。一方グロタンディークはクルミを水につけてひたすら待つ。ふやけたクルミの殻は一斉に割れて、中身は自然と取り出せる。この違いこそがグロタンディークの伝説たる由縁かと思われる。 | |||||||
関連資料 | 数学と裸の王様 : ある夢と数学の埋葬 / アレクサンドル・グロタンディーク著 ; 辻雄一訳. (現代数学社, 2015.10. 新装版. 収穫と蒔いた種と : 一数学者のある過去についての省察と証言 ; 2). | 電子ブック | |||||
ある夢と数学の埋葬 : 陰(イン)と陽(ヤン)の鍵 / アレクサンドル・グロタンディーク著 ; 辻雄一訳. (現代数学社, 2016.10. 新装版. 収穫と蒔いた種と : 一数学者のある過去についての省察と証言 ; 3). | 電子ブック | ||||||
数学者の孤独な冒険 : 数学と自己の発見への旅 / アレクサンドル・グロタンディーク著 ; 辻雄一訳. (現代数学社, 1989.2. 収穫と蒔いた種と : 一数学者のある過去についての省察と証言 ; 1). | 図書館オープン書庫(一般図書) 410.4 /G88 /1 |
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数学と裸の王様 : ある夢と数学の埋葬 / アレクサンドル・グロタンディーク著 ; 辻雄一訳. (現代数学社, 1990.2. 収穫と蒔いた種と : 一数学者のある過去についての省察と証言 ; 2). | 図書館オープン書庫(一般図書) 410.4 /G88 /2 |
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ある夢と数学の埋葬 : 陰(イン)と陽(ヤン)の鍵 / アレクサンドル・グロタンディーク著 ; 辻雄一訳. (現代数学社, 1993.3. 収穫と蒔いた種と : 一数学者のある過去についての省察と証言 ; 3). | 図書館オープン書庫(一般図書) 410.4 /G88 /3 |
千葉先生(2025/6/17)
展示の様子
[ポスターはこちら]
過去のシリーズ企画展示
第1回 加藤美砂子先生 乱読のススメ
第2回 三浦徹先生 発見と行動
第3回 小谷眞男先生 わたしを ・ なした ・ 本たち(とカルタ)
第4回 松島のり子先生 原点――そこから、それから。
第5回 難波知子先生 読書嫌いの私が出会った本 〈小さいおうち〉から〈青春の終わり〉・〈お別れの始まり〉まで
第6回 浅本紀子先生 私の思い出本~大学入学してから節目の時にあった本たち~
第7回 赤松利恵先生 地球環境の視点から毎日の食生活を考える
第8回 浅田徹先生 自分の研究観を作ったのは、他の領域の本だった
第9回 福本まあや先生 ダンスを語ろう、身体を知ろう。
第10回 米田俊彦先生 辛口の本をぜひ。
第11回 井上登喜子先生 わたしを動かした本
第12回 五十嵐悠紀先生 「使いやすさ」について考えてみよう~ヒューマンコンピュータインタラクション分野への誘い~
第13回 森山新先生 ことばの学びが世界の対立を越える道をつくる
第14回 大薮海先生 学問への入り口はさまざま―私はマンガとゲームから入りました―