企画展示
「先生方のおすすめの本を知りたい!」という多くの学生の皆さんからのリクエストにお応えし、お茶大の先生方おすすめの本を紹介するシリーズ企画展示「先生の推し本」を始めました。
先生方には、次の3つのテーマから1つ選択して、推薦いただきました。
① 専門からの推薦図書(専門領域の基本文献、その分野に進まれるきっかけとなった図書など)
② 個人的な興味・関心からの推薦図書
(読後の印象がよかったもの、思い出に残っているもの、趣味・個人的関心に関係する図書など)
③ お茶大生に読んでほしい本(専門にかかわらず、大学生にぜひ読んでほしい推薦図書)
推薦いただいた本のリストと先生方からのコメントは、こちらのページでも見ることができるほか、図書館1階グローバルラーニングコモンズには実物を展示しています。
展示している本は、手に取ってご利用になれるほか、貸出も可能です
(一部貸出不可のものもあります)。
ご来館の際はぜひお立ち寄りください。
第1回 加藤美砂子先生(附属図書館長) 2021年7月26日~10月1日
テーマ 乱読のススメ <テーマ選択②>
若いうちに、いろいろな本を読むことをお勧めします。それは、全く同じ本であっても、その本を読んだときの年齢によって読後感が全く違うことがあるからです。以前に読んだ時には、面白いと思わなかった本も、人生の経験を積むことで、再び、その本を手に取った時に思わぬ発見があるものです。最初に読んだ時には理解できなかったけれども、後年になって、「わかるわかる、そういうことだったんだ・・・」と思いつつ読み進めていく読書の楽しさは、若い時に本を読んだからこそ手に入る宝物です。過去を、歴史を、実体験としてさかのぼることはできません、現在進行形で、刻みつつある今の時間を大切にしてください。

1983年、お茶の水女子大学理学部生物学科卒業。
1988年、東京大学大学院理学系研究科博士課程単位取得満期退学。理学博士(東京大学)。
株式会社海洋バイオテクノロジー研究所研究員、お茶の水女子大学理学部助手、同大学院人間文化研究科助教授を経て、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系教授。
専門は、植物生理学(特に脂質代謝、二次代謝、微細藻類を用いた有用物質生産)。
現在、お茶の水女子大学副学長・附属図書館長。
加藤先生の推し本 一覧(2021/9/17更新)
書名 / 著者等. (出版社, 刊行年月. シリーズ名) |
配架場所 請求記号 |
先生からのコメント |
風の御主前 : 小説・岩崎卓爾伝 / 大城立裕著. (勁文社, 1994.8. ケイブンシャ文庫) |
図書館一般図書 913.6/O77 |
明治から昭和にかけて沖縄県石垣島の測候所長であった岩崎卓爾をモデルにし、沖縄在住の作家である大城立裕が書いた小説である。続きを読む岩崎は、気象観測を通じて台風の研究を行う傍ら、八重山地方の生物や民俗学の調査を行い、仙台生まれではあるが、その一生を、石垣島に捧げた。この本を初めて読んだのは、初版が発売されたばかりの中学2年の時である。岩崎は、気象観測に打ち込むあまり、台風の際に飛んできた石によって、右目を失明している。強い意思を持って何かに打ち込み、思いが深いほど、人は強くなれるのだとしみじみと思った。また、岩崎は気象観測だけをしていたわけではなく、八重山地方を愛し、地元に根ざしたさまざまな活動も行っていた。内に秘めた強さと、幅広い見識を持った人になりたい、将来は、夢中になれる研究を行いたいと私が漠然と考え始めたのはこの本を読んだことが契機であったと思う。この本には後日談がある。私が大切にしていた初版本を実家に置いたままにしていたら、平成7―8年頃に、家族が誤って処分してしまった。それを知った私は、同じ本を入手しようとしたが、後に出版された文庫本も含め全て絶版になっていた。今の世の中では考えられないことではあるが、昭和の時代に出版された本の奥付には、作者の住所が記載されていることがあった。わずかの可能性にかけて、附属図書館に収蔵されていた古い大城立裕の本を探して調べたら、住所が記載された本が1冊だけみつかった。その住所にあてて、「風の御主前」の本がどうしても手に入らないので、入手方法を教えてほしいと手紙を書いたら、作者自らが、手元に勁文社文庫が残っているから差し上げますと本が送られてきた。信じられないほどの感動であった。こうして、私は人生で2回、この本に巡り会った。 |
濡れた男 / 幸田文 [著]. (所収:男. (講談社, 2020.7. 講談社文芸文庫)) |
図書館文庫・新書 914/Ko16 |
私は学生時代、流れるようにしなやかな幸田文の文調が好きで、その小説をよく読んでいた。でも、この「濡れた男」は小説ではない。ルポルタージュである。
続きを読む高校1年生の現代国語の教科書に掲載されていた。鮭を捕獲する男たちを取材したルポであるが、川に帰ってきた鮭の産卵の様子を、巧みな表現を用いて描写している。生き物の激しい生きざまが心に突き刺さるように伝わってきた。生きものはすごい。心の底から感動した。当時、大学の生物学科に進学しようと思い始めていた頃だったので、私は同じ風景をみつめた時に、鮭の産卵というサイエンスのレポートは書けても、この迫力を凌駕する文章を生み出すことは不可能だなぁと思った。その後、しばらくして、理系への進学を決めた。 |
沈黙 / 遠藤周作著. (所収: 沈黙 ; 母なるもの. (新潮社, 1975.2. 遠藤周作文学全集 ; 6)) |
図書館オープン書庫(一般図書) 918/E59/6 |
江戸時代のキリスト教の弾圧の中で、棄教してしまうポルトガル人司祭ロドリゴの物語である。ロドリゴが踏み絵を踏む場面で、彼に語りかける神とはどのような存在なのか、信仰と心の隙間から広がっていく脆弱性の間で揺れ動く主人公の思いが波打つように伝わってくる。
続きを読むいつの時代においても人間は弱いものであり、現代社会でも、私たちは弱さを乗り越えるために苦闘するのが定めなのかもしれない。折に触れ、読み返しているので、自宅に文庫本が3冊あることに今回気がついた。 |
リア王 / シェイクスピア著 ; 安西徹雄訳. (光文社, 2006.9. 光文社古典新訳文庫) | 図書館文庫・新書 932/Sh12 | 「人を信じる」ことは「自分を信じる」ことである。演劇の舞台を観た印象が強い。裏切られ、年老いたリアが、亡くなった末娘のコーディリアを抱いて舞台の中央で絶叫するシーンを思い出すたびに、胸が締めつけられるが、心に残る1冊である。 |
大和古寺風物誌 : 写真版 / 亀井勝一郎著 ; 入江泰吉写真. (創元社, 1953. 創元選書 ; 244) |
図書館地下書庫(旧分類) L60/77 |
入江泰吉の写真 番外であるが、写真家入江泰吉の大和路の写真を、見てほしい。時代を越えて、この写真は生きている。日本に生まれてよかったと思える数多くの写真を思い出す。 |
大和路 : 入江泰吉寫眞集 / 入江泰吉著. (創元社, 1958-1960) |
図書館大型本 748A/I64/1-2 |
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四季大和路 / 入江泰吉著. (集英社, 1978.5. 現代日本写真全集 : 日本の美 / 日本アート・センター編 ; 第3巻) |
図書館大型本 748A/G34/3 |
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日本の四季. (毎日新聞社, 1973-1974) |
図書館大型本 748A/Ma31/[1] |
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東山魁夷展 : 生誕110年 / 東山魁夷 [画] ; 小倉実子編集. (日本経済新聞社, c2018) |
図書館展覧会カタログ 721.9TT6/H55/2018 |
東山魁夷の絵画 番外であるが、日本画家である東山魁夷の風景画は誰でもどこかで目にしたことがあると思う。私のお気に入りは、「道」と「夏に入る」。 |
東山魁夷展。 : ひとすじの道 / 横浜美術館学芸部 [ほか] 編. (日本経済新聞社, c2004) |
図書館展覧会カタログ 721.9TT6/H55/2004 |
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風が強く吹いている / 三浦しをん. (新潮社, 2009.3. 新潮文庫) | 図書館一般図書 913.6/Mi67 |
ぜひ、大学時代に読んでいただきたい。読後感がさわやか。 |
ツナグ / 辻村深月. (新潮社, 2012.9. 新潮文庫) | 図書館一般図書 913.6/Ts44 |
不思議な話で、グイグイと引き込まれていく。謎解きのミステリーみたいな感じで読むことができ、心温まる場面もあり、面白い。 |
鼹鼠(うごろもち) / 川上弘美. (所収:龍宮. (文藝春秋, 2005.9. 文春文庫) | 図書館一般図書 913.6/Ka94 |
川上弘美さんは本学の卒業生。多くの著作があるが、私には、この「鼹鼠」が強烈に印象に残っている。「鼹鼠」とは、モグラを表すらしい。 |
神様の御用人 / 浅葉なつ. (KADOKAWA, 2013.12-. メディアワークス文庫) | 図書館一般図書 913.6/A81 |
学科のアカデミックアシスタントさんからお借りして、通勤の電車内で楽しく読むことができたシリーズ本。本がちょっと苦手な人、気軽に読書したい人にもおすすめ。モフモフの狐の神様に会いたい~ |
展示の様子
<中央>


<右側>

<左側>

加藤先生(2021/7/27)

[ポスターは
こちら]
第2回は三浦徹先生です。