
最終更新:2026年11月5日
小泉郁子は、女子の教育機会が制限されていた時代に男女共学論を唱え、女性の権利向上を訴えた教育者です。
明治25(1892)年10月2日、島根県八束郡西津田村(現・松江市西津田)に父・小泉有本と母・キンの第六子として生まれました。戸籍上の名前は「イク」と登録されています。
島根県立松江高等女学校を卒業し、明治44(1911)年に東京女子高等師範学校 文科第二部に入学しました。在学中、学内のサークル活動を通じて青鞜社の運動を知ったことが、小泉のその後に影響を与えたと言われています。大正4(1915)年3月に卒業し、長崎や兵庫で教職に就きました。
大正11(1922)年に母校に戻って研究科に入学するとともに、東京帝国大学文学部の聴講生となりましたが、同年10月に留学を目指して渡米します。大正13(1924)年、オハイオ州にあるオーバリン大学(オベリン大学、Oberlin College)の神学部に入学し、宗教教育学を専攻しました。昭和2(1927)年に神学士(B.D.)の学位を取得し、同年9月にミシガン大学の大学院に進学して教育学を専攻します。翌年、修士号(M.A.)を取得し、博士課程に進学しました。
昭和5(1930)年に博士論文の資料蒐集のために帰国しましたが、再渡米せず、国内で職を探します。このころから雑誌、新聞、ラジオ等で積極的に発信し、昭和6(1931)年に『男女共学論』、昭和8(1933)年に『明日の女性教育』、昭和10(1935)年に『女性は動く』を次々に上梓しました。同じころ、東京女子高等師範学校の同窓会である桜䕃会で母校の大学昇格運動に参画しています。また、女子中等教員会などの設立・運営にも関わりました。
昭和10(1935)年に牧師・清水安三と結婚すると北京に移住し、清水が開設した崇貞学園の経営に参画するとともに、日本と中国との教育文化交流に努めました。しかし、終戦により崇貞学園は接収されたため、昭和21(1946)年に帰国し、桜美林学園を創設しました。昭和22(1947)年、GHQのもとに設置されたCIE(民間教育情報局)の教育部長カレー(V. A. Carley)は、小泉に教育顧問就任を要請しています。小泉は辞退しましたが、CIEでは英訳された『男女共学論』を参考にしたと言われています。
本学では小泉の遺志が若い世代に受け継がれることを願い、人文社会科学の諸分野において顕著な業績を挙げた女性を顕彰することを目的して、平成28(2016)年、お茶の水女子大学賞「小泉郁子賞」を創設しました。
略歴
| 明治25(1892)年 | 10月2日、島根県八束郡西津田村(現・松江市西津田)に父・小泉有本と母・キンの第六子として誕生。 |
| 明治43(1910)年 | 島根県立松江高等女学校を卒業。 |
| 明治44(1911)年 | 3月、島根県立松江高等女学校補習科を修了。 4月、東京女子高等師範学校 文科第二部(地理、歴史科)に入学。(18歳) |
| 大正元(1912)年 | 学内の活動を通じて青鞜社の運動を知る。 |
| 大正4(1915)年 | 日本基督教会富士見町教会にて受洗。 3月、東京女子高等師範学校を卒業。(写真)(22歳) |
| 大正5(1916)年 | 長崎県立高等女学校の教諭に就任。国語科担当。 |
| 大正7(1918)年 | 兵庫県明石女子師範学校の教諭に就任。地理・歴史科担当。 |
| 大正10(1921)年 | 清水が北京で崇貞学校(のちの崇貞学園)を開設。 |
| 大正11(1922)年 | 4月、東京女子高等師範学校の研究科に入学するとともに、東京帝国大学文学部の聴講生となる。 (29歳) 6月、山室軍平の説教を聞いたことを機に救世軍の活動に参加。 10月、留学を目指して渡米。 |
| 大正12(1923)年 | シカゴの救世軍士官学校を卒業。 |
| 大正13(1924)年 | オーバリン大学神学部に入学し、宗教教育学を専攻。 清水も1924-1926年に同大学に留学。 |
| 昭和2(1927)年 | 神学部を卒業し、学士号(B.D.)を取得。 ミシガン大学大学院(教育学専攻)に進学。 |
| 昭和3(1928)年 | ミシガン大学大学院(教育学専攻)の修士課程を修了し、修士号(M.A)を取得。博士課程に進学。 |
| 昭和5(1930)年 | 博士論文の資料蒐集のために帰国。その後、再渡米せず日本に留まる。 新教育協会の創設に参画。(1931年か?) このころから北京への移住までの間に、雑誌、新聞、ラジオ等で積極的に発信。 |
| 昭和6(1931)年 | 4月、青山学院女子専門部の教授に就任し、倫理学と国民道徳を担当。 実践女子専門学校の講師を兼任し、教育学を担当。 全国中等学校女教員会の創設に参画。 10月、『男女共学論』を上梓。 |
| 昭和8(1933)年 | 『明日の女性教育』を上梓。 このころ、桜䕃会の大学昇格運動に参加。 |
| 昭和9(1934)年 | ハワイで開催された「汎太平洋婦人会議」に日本代表として出席。ハワイ各地で講演後、帰国。 |
| 昭和10(1935)年 | 朝鮮・中国各地の大学で視察・講演。 5月、『女性は動く』を上梓。 7月、清水と結婚。北京へ移住。 |
| 昭和12(1937)年 | 崇貞学園の教務主任に就任、学園の運営にあたる。 |
| 昭和20(1945)年 | 敗戦により崇貞学園は北京市に接収される。 |
| 昭和21(1946)年 | 3月、帰国。 5月、桜美林学園、同学園高等女学校を設立。学園長に就任。(53歳) |
| 昭和22(1947)年 | GHQ下のCIE教育部長カレーから教育顧問就任を要請されるが辞退。 桜美林中学校を設立。校長に就任。 |
| 昭和23(1948)年 | 桜美林高等学校を設立。校長に就任。 |
| 昭和25(1950)年 | 桜美林短期大学を設立。教授に就任し教育学・英語を担当。 |
| 昭和39(1964)年 | 6月24日、脳溢血により死去。享年71歳。 |
| 平成28(2016)年 | お茶の水女子大学賞「小泉郁子賞」を設立。 |
在学時の記念写真

卒業時の集合写真
https://www.lib.ocha.ac.jp/archives/exhibition/g_ph/g_ph191503-0099.html
「東京女子高等師範学校卒業生写真 下 第六臨時教員養成所 大正2年~大正12年」より、大正4(1915)年3月に撮影された「文科卒業写真」。被写体は文科第一部・第二部の卒業生。前列左から4番目が小泉。

卒業記念写真帖に掲載された個人写真
https://www.lib.ocha.ac.jp/archives/exhibition/3355/m_ph_3355-0150.html
卒業記念写真帖 『MEMORY』(大正4年3月)より、「文科第二部卒業生」。被写体は小泉。
卒業記念写真帖 『MEMORY』(大正4年3月)
https://www.lib.ocha.ac.jp/archives/pic028_memory_t0403.html
小泉郁子の在学時期(明治44~大正4年)の構内の写真
卒業記念写真帖 『MEMORY』(大正4年3月)
https://www.lib.ocha.ac.jp/archives/pic028_memory_t0403.html
構内の様子や教員の写真も掲載されている。
当時の校舎(のちの西校舎)の様子。西校舎は創立以来の木造校舎であったが、老朽化のため大正2(1913)年7月より取り壊された。
https://www.lib.ocha.ac.jp/archives/exhibition/a_ph_104/a_ph_104-0001.html
https://www.lib.ocha.ac.jp/archives/exhibition/a_ph_104/a_ph_104-0002.html
https://www.lib.ocha.ac.jp/archives/exhibition/a_ph_104/a_ph_104-0003.html
「年代順に列べたる旧校舍の写真」より、「旧木造校舍」
東校舎脇にあった椎の大樹の下に集った生徒たち。明治44(1911)年3月に東京高等師範学校(のちの東京教育大学 教育学部の母体)の大塚への移転が完了すると、6月には東校舎の土地・建物が女高師に移管された。
https://www.lib.ocha.ac.jp/archives/exhibition/a_ph_104/a_ph_104-0005.html
「年代順に列べたる旧校舍の写真」より、「煉瓦校舍時代の生徒物理教室裏の椎の大樹(1)」
小泉郁子の著作
小泉郁子「大化の改新」『文科學術談話會々誌』 8巻, 1914年, pp.29-31
http://hdl.handle.net/10083/0002001411
東京女子高等師範学校 文科二部3年在籍中に、文科の機関誌に掲載された文章。
小泉郁子『男女共學論』 新教育協會, 1931年
https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000624740
1982年に日本図書センターからシリーズ『教育名著叢書』の一部として解説付きの復刻版を刊行。
https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000471741
小泉郁子『明日の女性教育』 南光社, 1933年
https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000471711
1983年に日本図書センターからシリーズ『近代婦人問題名著選集』の一部として解説付きの復刻版を刊行。
https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000475513
小泉郁子『女性は動く』 南光社, 1935年
https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000479363
2004年にゆまに書房からシリーズ『女性のみた近代』の一部として復刻版を刊行。
https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000642532
『小泉郁子教育論集』 桜美林大学出版会 ; 論創社, 2023-2025年
https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000862133
小泉の著作等を編纂したもの。各巻末には解説が、各巻の月報には小泉に関する論文が掲載されている。
第1巻『ジェンダーフリー教育』 https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000862123
第2巻『女性解放と教育』 https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000863862
第3巻『女性は動く』 https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000866470
第4巻『戦時下北京からの発信 1』 https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/OT90298700
第5巻『戦時下北京からの発信 2』 https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/OT90300414
小泉郁子に関する書籍・論文
注:ここでは附属図書館で所蔵している書籍、およびオープンアクセスで入手可能な論文を紹介します。なお、このページは主に上述の『小泉郁子教育論集』各巻末の解説および第5巻の「小泉(清水)郁子略年譜」、ならびに以下の★の書籍を参照して作成しています。
附属図書館で所蔵する書籍
★ 榑松かほる『小泉郁子の研究』 (桜美林大学国際学研究所研究シリーズ ; 4) 学文社, 2000年
https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000550714
富坂キリスト教センター『女性キリスト者と戦争』 行路社, 2002年
https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000802508
「小泉郁子と「帝国のフェミニズム」」を収録。
清水畏三『小論 : 小泉・清水郁子先生の人生 : フェミニスト・教育者』 (清水安三先生夫妻の遺業 ; 4) 清水畏三, 2014年
https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000822796
桜美林学園学園史編集委員会『桜美林学園100年史』 桜美林学園IRアーカイブスセンター学園史編さん室, 2022年
★ 図録編 https://opac.lib.ocha.ac.jp/opac/opac_link/bibid/T000856293
図録編はウェブサイトで公開されている。
https://www.obirin.jp/100th/chronology/
学術論文(OAで入手できるもの)
橋本紀子「1930年代日本の男女共学論と共学制度実現運動-小泉郁子の共学思想と実践を中心に-」『教育学研究』 49巻3号, 1982年, pp.275-285
https://doi.org/10.11555/kyoiku1932.49.275
山田純恵「小泉郁子の「独立人格」の理念に関する一考察」『教育哲学研究』 1995巻72号, 1995年, pp.1-15
https://doi.org/10.11399/kyouikutetsugaku1959.1995.72_1
小稲絵梨奈「日本における男女共学論の歴史と背景―小泉郁子の思想―」『教育学研究論集』 7号, 2012年, pp.167-174
https://doi.org/10.14993/00000643
★ 傳松かほる「小泉郁子の北京時代」『桜美林論考. 心理・教育学研究』 5巻, 2014年, pp.17-37
https://obirin.repo.nii.ac.jp/records/1159
菅原然子「羽仁もと子・吉一の中等教育段階における男女共学構想から男子中等教育構想への変遷 : 1920~30年代の『婦人之友』を中心に」『生活大学研究』 8巻1号, 2023年, pp.44-63
https://doi.org/10.19019/jiyu.8.1_44
小泉郁子に関するウェブサイト
お茶の水女子大学賞「小泉郁子賞」
https://www.ocha.ac.jp/danjo/op/kip/koizumi_ikko_prize.html
桜美林学園ウェブサイト「100周年記念事業」
100年史 https://www.obirin.jp/100th/chronology/
写真ギャラリーより 学園創立者・清水安三・郁子 https://www.obirin.jp/100th/photos/category1.html
写真で振り返る学園の沿革(学園の行事) https://www.obirin.jp/100th/history_04.html